最近ちょっと面白かった話 その2

 柴田元幸『愛の見切り発車』(新潮文庫)を読む。海外小説の紹介と、7人の海外作家へのインタビューが収録されている。僅々数ページでその本の読みどころを紹介し、読者をしてここで紹介されていて読んでいない本を求めて図書館ないしは書店へと走らせかける力は凄いと思う。少なくとも私は帰宅直後だったにもかかわらず玄関までいった。出なかったけど。本書の中で一番印象深かったというか、なんというか、電車の中で読んでいて思わず噴き出し、ついで、なんだかこうしんみりとしてしまったのがウィトゲンシュタインの話。ウィトゲンシュタインが博士号を取るため『論理哲学論考』を博士論文として提出した時の話だという。口頭試問役を彼のかつての師、ラッセルとムーアが勤めることになった。しかしこの時、ウィトゲンシュタインの思索は、すでに師の理解の範疇をはるかに超えるところまで推し進められていた。当日、ラッセルとムーアはかつての弟子に向かい『論考』の疑問点を指摘したという。その質問に対し彼はどう答えたか。

ウィトゲンシュタインは彼らの肩をぽんぽんと叩き、「気にしないで下さい。どのみちあなた方には理解できないでしょうから」と慰めた。(結局、彼は博士号も奨学金も得た)。


柴田元幸『愛の見切り発車』(新潮文庫)p103〜104

 切ない話だ。