珍しいものをみた。

 過日、時間ができたので近所の公園を散歩する。引っ越してきてからわりにちょくちょく来ている公園なのだけど、しばらく時間がなかったので、久しぶりの散歩。空気は肌寒く、むきだしの鼻の感覚がなくなっていく中に、土をふむ感触や、目にはいる木々の色合いが気持ちよく、ふらふらとあるきまわる。
 小一時間もあるいただろうか、すこし休むかと木陰にはいり座り込み、さっき買ったペットボトルの温かいお茶を頬にあて、それから口にふくむ。魂がぬけそうなくらいぼーっとする。あ、こりゃ寝ちゃうかも、と思ったそのとき、目の端になにか動くものがうつった。ん、と目をやると、人が二人、お互いに手先を向け、ゆっくりと円をえがくようにまわっていた。と思うと、ふいに低くなったり、その姿勢から急に上体を起こしたり、互いの手首に触れ前後に押し合ったりと、流れるような動きの中に、妙な力強さを内包している。二人とも西洋人だった。しばらくみていたのだけど、どうも八卦掌のように見える。実際にみるのははじめてなので、断言はできないのだけど、その特徴のある動きはおそらく間違いない。これは珍しいものを、とみていたら、その近くの木立の中になにかがみえた。はじめはただの木かと思ったのだけど、よくよくみれば、人が立っているのだった。
 足をわずかに曲げ、手をゆったりと前にかまえ、その姿勢のままぴくりとも動かず立ちつづけいている。彼もまた西洋人のようだった。まるで木々と一体化したように、人としての存在感が消え、ただ立っている。
 はてこれはなんぞやとみていたのだけど、もしかしてこれは意拳でいうところの站樁というやつだろうか。根が生えたように大地からすっと天に向けて伸びている身体に、恐ろしく強靭なものを感じて、ぞくぞくする。ただ立っている人をみるだけで、こんなにも力強さを感じるのはじめて。いや、良いものをみました。