最近読んで面白かった文章。

一般にすぐれた年長者との出会いは、自分のモデルとの出会いという意味で自己確立の契機であると同時に、相手の圧倒的な影響力によってそのモデルの中に自己を見失う自己喪失の危機をも意味する。とくに分裂病質者が相手から適当な心理的距離をとることによってみずからを守ろうとするのは、彼らの本性が“自閉的”だからではなく、逆に、彼らは相手に対して敏感にすぎ、自分が相手から全く見透かされているように感じるからである。彼らはたやすく自分と他人との境界線を見失ってしまう。とくに、強い自我との出会いはしばしば相手の自我が文字通り自分の中に侵入するように感じられるものである。分裂病者は相手との過度の接近によってかえって人と“出会いそこなう”のだといわれる。彼らはこの危険を敏感に察知し、みずからを自己喪失から守るのである。

飯田真・中井久夫『天才の精神病理』(中央公論社)p25-26

タイトルがあれなので、中井久夫が書いていなければおそらく手に取らなかった本ではあるのだけど、とても面白い。科学者の病積学的研究ということで、取り上げられているのはアイザック・ニュートンチャールズ・ダーウィン、ジグムント・フロイトルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインニールス・ボーア、ノーバート・ウィーナーの六人。この手の本にありがちな煽情的なわかりやすさというか単純化が無くてよかった。そして上記の文章に目がいったのは、たまたま「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」を観た帰りに読んでいたことには何の関係も無い。「ヱヴァ:破」は梶さんが英語喋っていてびっくりした。