やはりやすみは必要だ
最近ネットで知ったお店をさがしに神保町をぶらぶらと。しかしながらまったくのうろ覚えでいったため全然みつからず、細い路地を行きつ戻りつする。
ようやくそれらしいお店を発見するも、見かけがとても怪しい。ネット上で、怪しい見かけと書いている文章をみてはいたのだけれどそれにしても怪しい。寂れたビルの二階に店名が書かれた看板がでているだけ。どう贔屓目に見ても「一見お断り」のオーラが漂っている。本当にここかとしばしまよいつつも、ビルの入り口に手をかけせまい階段をのぼる。
閉まったドア。中はうかがえない。ドアには「ご自由にお入り下さい」とそっけなく紙がはられているだけ。いや、無理だろうこれ、と踵を返しそうになるも、怖そうな雰囲気だったらそのまま閉めればいいやと思い、とりあえず開けてみる。ドアを開けると中は事務所風のつくり。壁には本棚があり、部屋の真ん中にはご主人らしき人が座る机。その前には大きなソファー。お客さんらしき人が座っている。そのまま閉めるもなにも、開けた瞬間、ご主人と目があってしまう。私の身なりを見たご主人が不審そうにいう。
「あの……何か」
「あ、ええと、こちら古本屋さんですよね」
ご主人はますます胡散臭げに、
「そうですけど。なにかお捜しですか」
壁の本棚に並ぶのは和漢籍、もしくは革張りの洋書のたぐい。完全に専門店の品揃え。明らかに場違い。どうかんがえてもフリの客が入るところじゃない。こりゃ辞去した方がいいなと思う。
「あ、いえ、ええと道を歩いていたら古書肆という看板が見えたのでこんなところに古本屋さんがあるのかなぁ、とうかがったんですけど、ええと、出直しますね」と帰ろうとしたところ、ご主人が苦笑気味にいう。
「うん、まあ、ご覧の通り専門色の強い店なんで。で、どんな本を探してるの」
店の雰囲気にはあっているかと思い、一応聞いてみる。
「はあ、古い武芸の伝書なんかがあったらと」
「うーん、今は置いてないね」
ああ、そうですか、と立ちさろうとした瞬間、壁の本棚の中に『森銑三著作集 続編』をそろいで見つける。思わず訪ねる。
「あの、この森銑三著作集そろいでおいくらですか」
意外な事を聞かれた、というような顔で値段を教えてくれるご主人。やっぱり高い。ああ、いいお値段しますね、といったところ、ソファーに座っていた先客が苦笑気味に「それでも安いほうだよ」という。それからしばらく森銑三の著作集の値段について色々と話を聞く。話し終わり店をでようとすると、「もしよかったら」といって、小さな紙を渡される。お店の案内らしい。お礼をいって店をでる。
渡された紙をみると、《和本・書道・仏書・古文書・洋書・サバト本・各種研究書・書画》とある。やはり場違いだったなと思いながら、「サバト本」ってなんじゃらほい、黒魔術の本でも専門に扱っているのか? と思っていたら、帰宅してネットで件の古書店の情報を見て驚く。あの生田耕作の「奢灞都館」からだしていた本のことらしい! しかも生田耕作の旧蔵洋書も扱っているとのこと! 驚愕した。そんな古書店だったとは。ああ、失敗した。それなら聞きたい話あったのに。それにしても、なんというか、やはり神保町は恐ろしい。
それからしばらくして、ようやく目的の古本屋を見つける。通りをはさんで真逆にあった。非常に好みの品揃えでわくわくしながら棚を漁り、結局以下のものを購入。
・小林勇『惜櫟荘主人 一つの岩波茂雄伝』
・田村隆一『退屈無想庵』
・マーティン・エイミス『ナボコフ夫人を訪ねて―現代英米文化の旅―』
・須賀敦子『ユルスナールの靴』
・トマス・ピンチョン『スロー・ラーナー』
最後にもう一件立ち寄り以下のものを購入し帰宅する。疲れた。