わが名はタフガイル ソニックブーム! ソニックブーム!

 何の気なしに来月の文庫の新刊をながめていると、光文社に次のタイトルを認め、口に含んだ茶を吹きだしそうになりおもいきりむせる。近くにいた人に怪訝な顔をされる。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとびっくりして」

光文社文庫 カンタン刑 式貴士

 『カンタン刑』復刊ですか!! しかもそこには「式貴士 怪奇小説コレクション」とある。ということはあれですか、これから他のコレクションで『イースター菌』や『吸魂鬼』なんかも復刊するのですか!? 無茶苦茶驚きました。むかし先輩に教えてもらって読んだ式作品。奔放なイメージの乱反射というかナンセンス爆発というかポエジー充溢というか、いやとにかく凄く、といっても私が読んだことのあるのは先輩に借りた『ヘッド・ワイフ』と、古本屋の均一棚で見つけた角川文庫版の『イースター菌』と『虹のジプシー』だけなので、今回の復刊は渡りに船というか非常に楽しみ。話に聞くあの"究極の拷問"「カンタン刑」を楽しめるかと思うと今から胸がぞわぞわします。うう……読む前にものを食べるの止めておこう。

 と、すっかり興奮したまま新刊を眺めていると、今度は創元推理文庫にこんなタイトルを認め呆然とする。
「どうしたんですか?」
「いや、かなりびっくりして」

創元推理文庫 墓標なき墓場 高城高全集(1) 高城高

 こ、高城高ですか! しかも全集って! ようやっと中村雅楽探偵全集が完結したと思ったら*1……。凄いことするな創元……。江戸川乱歩に見出され、日本のハードボイルド小説の黎明期に活躍したというこの作家。長い間、幻といわれた処女作『X橋付近』を含む作品集が『X橋付近 高城高ハードボイルド傑作選』という名前で、東北の出版社から刊行されたことは記憶に新しいけど、まさかこんなにも早く文庫になるとは……。こりゃ買わにゃ。

と、他にも色々気になるタイトルが勢ぞろいで嬉しくなる。琴線をかき鳴らしたのはこの辺り。

河出文庫 山形道場(仮) 山形浩生
河出文庫 蒙古の襲来  海音寺潮五郎
講談社文芸文庫 逆髪 富岡多恵子
講談社文芸文庫 吉田健一対談集成 吉田健一 
集英社文庫 蝶のゆくえ 橋本治
ちくま学芸文庫 かたり 物語の文法 坂部恵
ちくま学芸文庫 大江戸異人往来 タイモン・スクリーチ 高山宏
ちくま文庫 ダブリンの人びと ジェイムス・ジョイス 米本義孝
ちくま文庫 落語無学 江国滋
ちくま文庫 尾崎放哉全句集 尾崎放哉
・中公文庫 暮らしの眼鏡 花森安治
・中公文庫 東京風景史の人々 海野弘
・中公文庫 もめん随筆 森田たま
・中公文庫 革命戦争回顧録 チェ・ゲバラ 平岡緑 
・ハヤカワ文庫SF 虎よ、虎よ! アルフレッド・ベスター 中田耕治
ハヤカワ文庫JA 兇天使 野阿梓
・文春文庫 文学的商品学 斉藤美奈子

 『逆髪』はちょうど松井冬子の「思考螺旋」という絵を本で観た直後だったので気になる。そういえば松井冬子の画集が近々でるらしくそれも楽しみ(いま、「画集」を変換したら一発目が「我執」で慄いた。松井冬子の「我執」が近々でるらしく こ、怖い)。

*1:贅沢をいえば戸板康二の随筆のほうもだしてくれないものか。確か文春文庫からでていた『ちょっといい話』シリーズはもう切れていたはずだし。薄田泣菫の『茶話』のような本が好きな人間としては、あの滋味溢れる文章をまた読みたい。