なんだか人がいろいろいっぱいいすぎて酔う

 気づくと今月はもうなんというか本当に色々とすばらしいマンガがでるわでるわでうれしい事このうえなく、思いだしながらなので順不同のなか劈頭を飾るは沙村広明『ブラッドハーレーの馬車』の救いようのない物語にがつんとやられ、偶然にもその物語を反転させたような、よしながふみ『大奥3』の展開に衝撃をうけ、ひぐちアサおおきく振りかぶって9』の凡百のスポ根モノと一線をかくするキャラクターの心理描写にやっぱこれだよなとほくそ笑み、志村貴子放浪息子7』にはいつもながら気づくと「あれ、これって、物語的にもっとこうねっちりと描くところじゃないのか?」というところがさらりと流されていて、その流し方に衝撃をうけ、柴田ヨクサルハチワンダイバー5』の特異な会話と絵の異様な濃密さに加え新しくでたキャラクターに『エアマスター』を思いだして視界がぐにゃりと音をたてて歪むような心持になったり、『コミック怪 vol.02』を購入した直後に京極夏彦/原作 志水アキ/作画『魍魎の匣』がでてしまい「いや、ちょいまて早すぎるだろう!」と叫びながら悶絶してしまうも、まあ、絵がとてもよかったのでそれはそれでいいやと納得したところで、『神戸在住』の最終巻がなぜか延び延びになっている事を気にしつつも先にでた木村紺巨娘1』が、うーん、なんとも微妙で前作の反動なのか、枠組みを広げるための戦略なのか、だとしたらもったいないなぁ、と思いながらも石黒正数『探偵綺譚 石黒正数短編集』の微妙なぬるさとずれた感じのある世界観にほわほわしながら読んでいたら、本屋で西炯子/画 大槻ケンヂ/原作『女王様ナナカ』をみかけ驚き購入し西炯子の昔の絵に懐かしさを覚えながら読了したところで、わたべ淳『遺跡の人』、福満しげゆき僕の小規模な生活1』の2点を買い忘れていたことに気づいたけれど、きっと本能がいま読むのは避けろといっているのだと思いなおしそのままスルーし、柳沼行ふたつのスピカ13』の前作のひきが嘘でしたー、という流れになることを期待して読みながらも当然そんなわけはなく、くるぞくるぞと思っていたら「府中野」のところで滂沱の涙を流してしまい、もうその後もゆるゆるになってしまった涙腺からは続けざまに滂沱滂沱で、このわかっていても読者をして号泣させる作者の構成の妙に酔いながらデビット・宮原/原作 たなか亜希夫/画『かぶく者1 2』を読むと物語の流れはさておき、『軍鶏』で武術の身体表現をぎりぎりまで美しく描いたたなか亜希夫が今度は歌舞伎を描くとあれば期待はいや増すというもので果たしてその期待は裏切られず、「天才」市坂新九郎とその先祖生島新五郎の動きのつくりかた、見開きの一枚絵にほれぼれしながら、っと、控えたる大本命オノ・ナツメ『Danza』を読む。
 
 震える。カメラワーク(?)が尋常じゃない。現行のマンガ表現の中で隔絶しているように思う。異形という言葉すら浮かぶ。この文法はいったいどこからきているのだろうか。人物の「内面」や関係を描くのに、ふきだしや地の文を使うのではなく、その微細な表情(特に目線の動かし方!)、コマのつなぎで処理する技術。それ自体はマンガの歴史の中でつくられてきた技術なのだろうけど、人物を描く視点、カメラワークにはただただ驚嘆する。それはともかく「湖の記憶」は最後は非SFで落とすのかと思い読み進めていたらまっとうにSFでしめてて逆に驚く。「箱庭」のダンナかわいい。「パートナー」の続編楽しみ。