・最近考えたこと。


 芝居を観るために原宿にでむく。普段はほとんど利用しない駅なので、見るものすべてがめずらしい。とりあえずロリータ衣装の女の子がやたらにいて眼福。ゴスロリの子もいっぱい見た。改札をでて、線路に沿って新宿方面へ歩く。都会の真ん中とは思えない、異様な密度を持って木々が生い茂っている。劇場につき、チケットを購入する。目が覚めたら待ち合わせ時間の30分前だったという友人を待ちながら宇野千代青山二郎の話』(中公文庫)を読む。でだしの「青山二郎さんのいまの住居は、渋谷区神宮前二ノ三三ノ一二にある」(p7)という文章に、ちょっと驚く。近いといえば近い。恐らくこの場所で読まなければ青山二郎の住居があった場所など気にも留めなかっただろうと思うとなんだか面白い。宇野千代の、思い出話のような、時間軸がぶれてゆきつもどりつする感じや、青山二郎という人物をわかりやすい型の中に当てはめて論じるようなところがない淡々としたその描写の仕方が不思議な感じで良い。途中、三宅艶子の話がでてくるのだけど、青山二郎宇野千代三宅艶子の三人が結びつくとは知らなかった。不覚。三宅艶子『ハイカラ食いしんぼう記』(中公文庫)では、結婚相手の阿部金剛の強烈なキャラクターや、大正から昭和初期にかけての、いわゆる「ハイカラ」な生活の様子が印象に残っているだけで、青山二郎宇野千代の話がのっていたのか、のっていなかったのかまったく記憶にない。なんだか悲しい。

 待ち合わせの時間から遅れること20分。ようやく友人が到着する。なんでこんなに遅くなったのかと問うと「線路に沿ってまっすぐ歩いていたら明治通りにぶつかった。そのせいで遅れた」とのたまう。本当にまっすぐに来たならば絶対に明治通りにゆく事はありえないということを説明するが聞き入れない。友人は「恐らく道が歪曲しているのであろう」と重ねて言う。「歪曲しているのはお前の脳内じゃないのか」と言うと「然り。最近、眩暈がひどくてさあ。なんか右回りにぐるぐると視界がまわるので、左回りに目をまわしてきたんだけど、もしかしたらそのせいかもしれない」と言う。冗談っぽくないところが怖い。

観劇終了後、原宿駅まで歩いていると友人が言う。
「そういえば原宿駅って皇室専用のホームがありますよね」
「……お前は何を言っているんだ?」
「いや、本当ですって。マジに。山手線にのって外見てればわかりますよ」
「それって皇室専用の車両があって、そのホームだけに停車するの? 山手線の線路つかって?」
「まあ、そうなんでしょうね」
「時間調整とかどうやるの?」
「さあ、連結とかうまくやってるんじゃないですか? そういう事はテツに聞いて下さいよ」
「それって有名な話なの? 初耳だけど」
「どれくらい有名かは知りませんけど、わりとみんな知ってるんじゃないですか」
「なんで原宿駅なの? 明治神宮があるから?」
「さあ……?」

 そんな話をして友人と分かれた後、2時間前に見たロリータ衣装の集団を思いだす。その瞬間、最近友人と交わしたメールを思いだす。


・タイトル ふと
・本文 メタツンデレ、という言葉を思いついたのですが、なんなんでしょうこれ。自身がツンデレであることをツンデレという行為の中で露わにするようなツンデレ、あるいはツンデレに関する言説一般?


・タイトル Re:ふと
・本文 自分で思い付いた概念の絵解きを他人にたのむなよ。しかも難しいやつを。なんだろうね、ツンデレについてのツンデレか。わけわからん。


・タイトル 頭の中で彦摩呂が叫ぶ
・本文 ツンデレデコンストラクションや〜


 こんな私に付き合ってくれる友人を大切にしなければと心の底から思いながら歩いていると、ゴスロリの女の子とすれ違う。その瞬間、先ほど聞いた皇室列車の話を思いだしこんなメールをつくる。


・タイトル 原宿に集まるゴスロリ娘を見て思いました
・本文 新しい『異形の王権』。明治神宮の磁場に引き寄せられ国を守るために集う、ゴスロリ少女達の物語。名づけて『報国戦隊ゴスロリンジャー』。あるいは『皇国戦隊ゴシックス』。もちろん彼女たちを率いるのは東京の虚ろな中心に住まう聖老人。ああ、ヘンリー・ダーガーみたいだ!


すぐに返信が来る。


・タイトル 雨宮処凛も出は右翼
・本文 なにその殉死だけ得意そうな戦隊モノ。ってかそれ、社会システムから疎外された人々(ニート・オタク・プアホワイト)ほど愛国を叫ぶっていう不必要に真実を突いた話になっちゃうかららめえ!


・タイトル 新セカイ系
・本文 国とボクのセカイ


・タイトル (non title)
・本文 それいいな。女の子すらでてこない。


 本当に大事にしようと思った。