吹きすさぶ風邪に体衰弱 

 久しぶりに近所のブクオフへゆくとけっこう欲しいものがあったりして嬉しくなるのだけど、この間はエリアーデ『ホーニヒベルガー博士の秘密』(福武文庫)、宮本常一『日本の村・海をひらいた人々』(ちくま文庫)、平出鏗二郎『東京風俗志 上・下』(ちくま文庫)、獅子文六『ちんちん電車』(河出文庫)などを購入。買ったばかりの本を片手に喫茶店に入ろうとしたところ、友人から飲まないかというメールが入る。電車に乗り移動。車内で獅子文六『ちんちん電車』をぱらぱらと。本書は路面電車の思い出を綴ったものだけど、私はこの著者の『食味歳時記』や『私の食べ歩き』なんかの食べ物を扱った随筆が好きなので、読んでいてもついつい食物の描写に目がいってしまう。新橋の牛鍋屋の話にちょっと惹かれる。
 いつもの場所にいるかと駅をでると友人の姿は見えない。電話をすると電波が届かず、メールをしても返信がない。まあいいやと本屋にゆき、まだ買っていなかった田丸浩史ラブやん⑦』(講談社)、CLAMPXXXHOLiC⑩』(講談社)を購入。他階を冷やかしていると友人から着信が。駅前にいるというので戻ると、今しがた私がいた本屋の袋を持っている。
「あれ、あそこにいたの」
 頷く友人。私の袋を見て、
「もしかしてすれ違い? 何買ったの?」
「いや、マンガだけど」
「私も。それじゃやっぱりすれ違いだね」
 ちょっとの待ち時間でも、時間ができれば取り合えず本屋にいってしまうというのはやはり類友の証か。


 店に入りちびちびやっているともう一人の友人が合流し、炙った魚と最近読んだ本の話をつまみに飲んでいるうちに、だんだんと酔いがまわってくる。河岸を変えようという話になり、店をでて、友人が行ってみたい店があるというのでそこを探し街をうろついていたあたりまでは割合に記憶が鮮明なのだけど、店を見つけ再び飲みだしたところからやや記憶が怪しくなり、他の友人を呼びだしたところまでは覚えているもののの、気がつくと友人が二人増えていて、時計に目をやると小一時間経過しており、尋ねるとその間にも普通に話をしていたというのには我が事ながら驚くも、その断片的な記憶を探るに「『ラブやん』こそは現代のヘレンケラーの物語なわけですよ「ロリ」「オタ」「プー」に加え三十路一歩手前という四重苦の青年が今後どうなってゆくか、ああなんというスリリングな展開でしょう。そしてつまりはラブやんとは現代に蘇ったサリヴァン先生なわけで、あんなサリヴァン先生ならこちらとしても受け入れるに吝かではないですよ。それはもういつでもかかってこい、私はいついかなる時でもそれが誰であろうと挑戦をうけるでありますよ」というような事を熱く語っていたような気もして、おそらく酔いの中で見た夢なのだろうと思うもやはり記憶を無くすのは恐ろしいことだとぞっとする。そうすると揺蕩う中にお勘定をして友人の車に乗り込みふと気づくとメイドの衣装を着込んだ若い娘さんのいる店でウヰスキーソーダ割を片手に『誰がために』を歌っていたという記憶もあるいは夢なのかもしれず、しかしそれが夢であって悪いわけでもないので『キングゲイナー・オーバー!』を歌い「キング、キング、キングゲイナー」と皆で腕を振るのも楽しく、まあ、それが夢かどうかなんてどうでもよい事なのだ、と思う。ただ如何せん、この日の徹夜が効いたのか風邪をひいたようでどうにも体がだるく、翌日は時間が間延びしたように感じられ一日ぼうっとした頭で過ごし、何度も怒られる。二日たった今日になってもどうにも風邪が抜けてくれない。こまった。
 それにしても一つ不思議なのは、私は携帯のメールにメモを書き付けておく習慣があるのだけど、目覚めてから見ると、そこに一言「ピートリーク」とあった。なんのこっちゃと調べると、どうやらウイスキーの名前らしいのだが、何でそんなものをメモしておいたのかいっかな記憶にない。酔っ払っている間に飲み、美味しく感じてメモしておいたのだろうか。あるいは友人にお酒の事でも尋ねたのだろうか。不思議だ。