今日の出来事

 約束の時間まで間があったのでいい加減のびてきた髪でも切ろうかと馴染みの美容室にふらりといったところ、予約のお客で一杯だとのこと。しょうがないので古本屋を冷やかすつもりが、一軒目で村松友視『鎌倉のおばさん』(新潮文庫)を購入。最近読んだ角田光代岡崎武志『古本道場』(ポプラ社)で、村松友視村松梢風の孫だったという事を始めて知り、そこで「傑作」と紹介されていたこの本を読んでみたいと思っていたら200円で発見。全然関係ないが、この『古本道場』を購入した翌日、友人と渋谷を歩いていて、駅のそばにありながら今まで知らなかった古本屋を教えてもらう。非常に気に入る。藤原明衡 川口久雄 訳注『新猿楽記』(東洋文庫 424)、ジョン・バース『旅路の果て』(白水Uブックス)を購入。翌日『古本道場』を読んでいたらその古本屋が紹介されていてちょっと驚く*1。前日は思い入れのある地域の古本屋のところを拾い読みしていたので、渋谷のところを読んでいなかったのだ。なんとはなく不思議な気分になる。あと、角田光代によるこんな文章を読んで悶絶する。

倉庫前から続く路地をちらりと見、見たとたん、学生時代の記憶がじつに鮮明にあふれ出てきて仰天した。この道は、大学構内へと続く裏道で、高木ブーの家があったり*2、天ぷらのおいしい店があったりする。今までずっと忘れていたけれど、この裏道、しょっちゅう通っていた。
 馬鹿みたいな恋をしていたなあ、とか、失恋してこの世の終わりみたいに落ちこんでいたなあ、とか、そんなことばかりずるずると思い出した。恋関係の悩みを抱いていたときよく通った道なのだろう。恋関係は裏道……ますますなんか馬鹿っぽい。


角田光代岡崎武志『古本道場』(ポプラ社)p97〜98

 幸いにというか何というか、そういう思いを抱いて通ったことはないのだけれど、この裏道は私も学生時代何度も何度も、それはもう嫌になるくらい通った道なので、色々と思い出し、なんだかしみじみとした情感におそわれてしまう。

 二軒目では山本笑月『明治世相百話』(中公文庫)を購入。著者紹介を見て「そうかそういえばこの人は花屋敷をつくった山本金蔵の息子で長谷川如是閑の兄だったな」と思っていたら、帰り道、読んでいた坪内祐三三茶日記』(本の雑誌社)でちらりとその名前に触れられていて、何とはなしにシンクロニシティを覚える。ついでにこんな文章が眼に止まり、こりゃ読んでみたいと思う*3*4

お春さんと言えば、大下英治の大味なお春さんの伝記(題は忘れた。『夕刊フジ』に連載されていたもの)に憤慨して、故隆慶一郎さんの娘さんが正しい(「正しい」に傍点あり 引用者注)お春さん伝を書こうとして、九年前私も取材を受けたけれど、あの作品はどうなったのだろう。完成をずっと心待ちにしているのに。


坪内祐三三茶日記』(本の雑誌社)p205

 この「お春さん」という人は銀座にあった「らどんな」という伝説的なBAR(?)のママで、いわゆる文壇の人たちが出入りしていた店らしいのだけど、私は隆慶一郎のエッセイ(確か『時代小説の愉しみ』(講談社)にでていた筈)でその名前を知った。あとは隆慶一郎のご息女、羽生真名が父親の思い出を綴った『歌う舟人 父隆慶一郎のこと』(講談社)にも少しその話がでてきたように記憶している。そのお店に学生時代の坪内祐三が「お春さんに可愛がられていて、殆どタダみたいな値段で、生意気にも『らどんな』に出入りしていた」とは知らなかった。それにしてもこの「故隆慶一郎さんの娘さん」の「お春さん伝」を読んでみたいな。それとも私が知らないだけですでにでているのかしらん。
 三軒目では林望『書藪巡歴』(新著文庫)、倉阪鬼一郎『活字狂想曲―怪奇作家の長すぎた会社の日々』(時事通信社)、それと100円であった歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』(文藝春秋)を購入。最近、ここのご主人の書いた本を読んだので、一瞬、会計時に「本の方、読ませていただきました。ブログいつも読んでいます」と声をかけようかと思うも、なんだか気恥ずかしくそのまま店をでる。
 時間を少しすぎて合流し、そのまま飲み会へ。焼酎をたてつづけに飲み、べろべろになり帰宅する。疲れた。

*1:正確には紹介されていたところの下にある古本屋で買ったのだけど。

*2:ちなみに永井豪の仕事場(?)もある。新入生の時分にこの道を通ると、絶対、先輩から教わるのだ。そして後輩へと伝えられてゆくのだ。

*3:他にも『三茶日記』にはわくわくするような話がたくさん書かれていて、例えば山田清三郎という人の『転向記』全三巻(理論社)の第二巻『嵐の時代』を紹介する文章。読んで仰天する。甘粕正彦について書かれた箇所で、自殺を懸念されていた甘粕の監視役として赤川幸一、大谷隆、長谷川濬という人物が同じ部屋で寝ていたのだという。坪内によれば、この「赤川幸一」はあの赤川次郎の親父さんで、「長谷川濬」はあの長谷川海太郎(つまりは林不忘牧逸馬谷譲次)の弟なのだという。こりゃ知らなんだ。ということは、先ごろ完結した村上もとか龍-RON-』での、甘粕の自殺の場面にもでていたという事か。

*4:あ、Wikipediaに書いてあった。