色が白いは七生報国

 先輩のブログを読んでいたら「THE MANZAI」というテレビ番組に登場した謎の三人組「トリオ・ザ・テクノ」について書かれていた。先輩は宮沢章夫東京大学「80年代地下文化論」講義』を読んでその存在が気になり、「『それはうそだろう』と思われるものながら、写真もあるので『じゃあ本当なのか。でも』ともやもやしていた物件が、YouTubeで探したら見つかった」 のだという。


 http://www.youtube.com/watch?v=jNjGG_eznCU


 というわけで私もその映像を観てみる。先輩は「知ってた人からすれば私が無知だっただけだが、しかし、9分て長いものだと思われたことである」と感想を書かれている。 なるほど。私はこんな文章を思い出した。

〔…〕アノニマスに無責任にやっていた時は三人でわいわいやっていたんだけれども、『BGM』というアルバム以降、有名性をもってやんなきゃいけなくなってきて三人ともそれぞれの個性みたいなものを考えだしちゃってね。そうすると自分の音楽という、バンドのアルバムだけど、その中の個人の音楽性みたいなものを主張しだして、重たくなってきたわけね。その頃からお互いにあまり顔を見ないようにしだして。だからレコーディングもばらばらにやったりとかね。
 いつも誰か一人が抜けているとか、外に出ていたりとか、スタジオでも一言も喋らなかったりとか、そういう感じで、ものすごい音楽上の確執があったんですよ。
(中略)
 特に細野さんが宗教に関心もって、神秘主義とか神道とかにもどんどんいく時期だったから、今でもそうみたいだけど、そういうことも耐えられなくてね。それでYMOがなんか一種、宗教バンドみたいな様相を呈してきた。それも恐かったんですよ。必死で抵抗したわけ。もちろん、尊敬しているんですよ、音楽家としては。


「NOT GOOD, BUT GREAT」(『SELDOM-ILLEGAL 時には、違法』坂本龍一 所収)

 それにしても映像中、細野晴臣の故・林家三平師匠の物まねは異様に上手かった。

 
 ついでにこんな文章もあった。

 解散コンサートは十か所ぐらいでやったんです。日本で。(中略)同時に映画も作ろうというんで、フィルムも回して、解散した次の年の一月に千葉の海に同じセットを作って、それを燃やしたんです。それを編集して、YMOの最後のツアーのステージが燃えて、ぼくたちがいなくなる。消えちゃうという話。
 だから、燃えてなくなっちゃったんだ、ぼくたちは。最初っから、なかったのかもしれない。だけど、音だけは残ってしまうわけですね……。


「NOT GOOD, BUT GREAT」(『SELDOM-ILLEGAL 時には、違法』坂本龍一 所収)

 残ったのは音だけではなかったようだ。


 そういえばこんな文章もあった。

〔…〕国語と英語は、まあわりと苦労なくいい点とれていたんじゃないかな。父親が編集者だったし、そういう意味ではぼく小説なんかほとんど読まない人なんですけれど、なんとなく知識―センスというのかな―として入っているから、けっこう役立っていたのかもしれないね。
その父親のことなんだけど、高校ぐらいになるまではまともに顔を見たことがなかった。まず、いないんです。月に一回ぐらい日曜日に家にいることはあるんだけど、寝てるだけなんだよね、昼くらいまで。顔を見ても、こわかったからまともに話せなかった。尊敬もしていただろうと思うけど。
(中略)
家に来ていた作家でよく覚えているのは、小田実高橋和巳。小学校のときからよく来ていた。朝まで飲んでいるわけ、ワーワー言って。あと、電話なんかでカッコいいなと思っていたのは、埴谷雄高椎名麟三大岡昇平。(中略)三島由紀夫の『仮面の告白』を担当した編集者なんだから、すごいっていえばすごいんだろうけど、子供心にはとにかくこわいっていうだけの印象だったなあ*1


「GNYOTAI NO SHINPI」(『SELDOM-ILLEGAL 時には、違法』坂本龍一 所収)

 そんな恐い父親に向かい、高校時代、学生運動に熱中していた坂本は共産党宣言を渡し、読めよ、と言ったらしい。「子供がこれだけ真剣にやっている思想なんだから、親は理解するのが当たり前だろう」と言って。それに対する父親の反応はというと―

一度、父親に赤軍に入りたいみたいなことを言ったら、お前が人を殺したら、おれが(お前を)殺すからな、とか脅かされたことがあったけどね(笑)。あれ脅しじゃなかったのかな。


「GNYOTAI NO SHINPI」(『SELDOM-ILLEGAL 時には、違法』坂本龍一 所収)

 そういえば、学生時代潜っていた授業に坂本龍一が特別ゲストのようなかたちで来た事があった。ちょうど私がサボった日に。なんでもそのとき講師をしていた人の友人だったのだとか。その時の授業の様子を後で知人に聞いたら、阿呆な学生がいきなり阿呆な質問をぶつけたらしく(たしか、地雷撲滅運動にかかわっているのは売名目的ですか、みたいな事を言ったのだとか)それに対し坂本が本気で怒ったとか云々。居合わせたかった。その現場。

*1:ちなみに、この父親、坂本一亀については作品社からでている『伝説の編集者 坂本一亀とその時代』(田邊園子)に詳しい。