最近ちょっと面白かった話 その4

荒俣 そう言えば、かつての鬼退治のグループもみんな水の一族ですね。安倍晴明にしても、渡辺綱をはじめとする渡辺党にしても、元来は水の民です。


小松 渡辺の一族は難波の、今の中の島あたりの出自です。そこから分かれたのが海賊の松浦党*1です。都では海賊をやれないから、筑紫に流れた。松浦党には、晴明と同じ安倍氏の宗任の子孫だという伝承もあります。鎌倉時代津軽地方で栄えた安東氏ともつながりがあると言いますしね。


荒俣宏VS.小松和彦『妖怪草紙』(学研M文庫)p166

小松 実は、渡辺綱の一族が淀川の近辺に、今もすごい屋敷を構えているんです。でも、外との交渉は一切なし。僕も家の造りをみたいんですが、誰も入れてくれないらしい。


荒俣 渡辺党の家というのは、昔からいろいろ言い伝えがありますね。鬼が逃げた跡をふさいだので破風をつくらないという話ね。どうして入れてくれないのかな。源頼光の末裔の紹介でもないと、だめなんでしょうね。鬼退治をいまだにやってたりして。


荒俣宏VS.小松和彦『妖怪草紙』(学研M文庫)p174

 
 荒俣宏の発言。これが高橋克彦だったら結構笑えない。本気で言ってそうだ。
 友人にこの話をしたら、「石川雅之の『カタリベ』がもし新しく描きなおされる事があったら入れて欲しいネタだね」との言葉をもらう。いや、まったくだ。あれは大傑作になる予感があったのでこういう面白ネタを入れて描いて欲しい。現代に生きる渡辺家の人には迷惑だろうけど。
 
 あとこんな話もあった。

荒俣 何で悪霊史をやってはいけないんですか。


小松 弾圧を受けるんじゃないかな。高野山で調伏用に使った曼荼羅と、護摩壇の作り方を書いたものが、出てきたことがあったんです。どうやらかつて天皇を調伏しようとしたときのものなんですね。三角の護摩壇なんですよ。その写真を手に入れようとして、出版社を通じて申し込んでみたら、「上層部で門外不出にしました」、それで終わり。


荒俣 政治的に駄目なんだ。高野山は、もともと調伏や民間治療などを一手に引き受けるところだったはずですよね。現在はそういうものは、見せたがらない。立川流も、タントラ密教ということでは正統的な部分もあるのに、邪教とされて、触れることはタブーですね。


荒俣宏VS.小松和彦『妖怪草紙』(学研M文庫)p225

 「それで終わり」って……。

*1:渡辺綱の子孫は、摂津渡辺党として源頼光の玄孫頼政に仕えたが、綱の孫の久は、検非違使として肥前松浦に下向し、松浦氏となった。この子孫は、異性の諸氏を組み入れ松浦党を結成、水軍として活躍することになる。荒俣宏VS.小松和彦『妖怪草紙』(学研M文庫)p167 松浦党の注より