この季節になるとスピッツが聴きたくなるというベタなこの感性を笑われるかと思ったら、意外に賛同者が多くてちょっと嬉しくなる。「『スピカ』とか聴きたくなるんですけど」「『スパイダー』とか『ロビンソン』とかも聴きたくなりません?」「「なるなる」」と、盛り上がっている私たちを黙ってみていた友人が呆れたようすで一言。「お前らベタだな」 ちょっとヘコむ。

こんなイベントこんなイベントがある事を、たまたま先週の金曜日に知る。その日のうちに、帰宅しながら電話をかけ予約する。帰宅後ネットに接続し、よく見るサイトをまわり、ふと思い、最近見ていなかった先輩のブログを見にゆく。驚く。件のイベントの事が書いてあった。それだけなら驚きはしないけど、更新した日付が、私が知ったのと同じ日。しかもちゃんとこの二つ。これも何かの類友か、と書くと先輩はとても嫌な顔をしそうなので書いておく。
 というわけでゴールデンウイークの予定が一つ決まる。4月29日は去年に引き続き今年も谷根千で行われる一箱古本市にゆくつもりなので、これで二つ。そしてついさっき知った山本タカトこんなイベントにもゆくつもりなので、これで三つ。他に、先輩に中央線沿いのオススメの古本屋を案内してもらうかもしれないので、これで四つ。ゴールデンウイークの約半分が本関係で埋まる。なんだかなあとも思う。


 先週の土曜、友人と飲んだ後ふらふらする足で駅に向かったところ、駅前で同窓と後輩に出会う。おやおやお久しぶりと立ち話が始まる。後輩から昨今の出版事情についての講義を受けていると、頭の上を電車が走ってゆくのが見えた。時計をみると終電のでる時間だった。線路の明かりが消えてゆくのも見えた。では飲みにでもゆこうかという話になるまで、小一時間そのまま話し続ける。駅のシャッターが閉められたのをきっかけにだらだらと歩き始める。「どこにゆこうか」「どこでもよいよ」という学生時代のような会話を交わしながらぶらぶら歩いていると、どこかで見た顔が二つ横断歩道を渡ってくる。後輩だった。立ち止まるこちらとあちら。
「何やってるんですか?」「いや、そちらこそ」
 結局、5人で店にむかう。まるでドラクエだと笑いあう。そういえば昔、友人と2人で飲みにゆこうと歩いていると、途中途中で知り合いやら友人に遭遇し、最終的に10人ばかりにふくれあがりそのまま飲んだ事があった。卒業して何年かたつのにやってる事はあまり変わらない。


 最近就職した後輩の職場の話(「聞いて下さいよ。あいつら日本語が通じないんですよ。二字熟語使うときょとんとされるんですよ。やってられませんよ」「あれ、―さん外資系だっけ?」「いえ、関係ないです」)を聞いたり、最近読んだ本の感想を喋りあったり(「恥ずかしながら最近はじめて尾崎翠読んだんだけど凄いね」「尾崎翠のなに読んだんですか」「ちくまの上下」「あ、それじゃあ『第七官界彷徨』読みましたよね」「読んだ読んだ。あんな作品を書く人が昭和の初期にいたなんて驚いた」「あー、あの頃って結構アナーキーですよね」「というか、長兄の心理学者っていう設定がツボだった」「……そこですか」「―さんは最近なんか面白いの読んだ?」「P・Gウッドハウス、読みました」「おお、ジーヴス!?」「はい」「いいよねあれ! 文春?」「国書です」「んじゃ、吉田健一の文章読んでない?良いっすよ。つうか、二日酔いの朝、あんな飲み物をつくってくれる執事欲しいよね!」「というかジーヴスが欲しくなりますよね!」「そういえば最近、阿川弘之読んだんだって?」「おう。読んだ読んだ『南蛮阿房列車』ね」「文章の切れ味凄いよね」「凄い凄い。今までは阿川父っうイメージだったけど、完全にひっくり返った」「やっぱり鉄ちゃん的にも評価は高いの」「そうですね。内田百輭阿川弘之宮脇俊三っていう系譜があって、その後が不在みたいなところはありますね」「へー」)、何故かそれぞれの高校の話(色々と話には聞いていたけど、キリスト教系の私立とか関東の名門私立は特色あるなあ……)になったりしながらそのまま朝方までだらだら過ごす。帰宅しながら、わりに多く飲んでしまったのでくるかなと思っていたら見事に二日酔いになる。せっかくの日曜を寝て過ごすのもなんなんでよっこらしょとかけ声をかけて無理やり起きる。前の晩の会話に刺激されたのか足が近場のブックオフにむく。色々買い込み帰宅。家に着いた途端、身体からきしきしとどこかの油が切れかけているような音が聞こえてきたように思い、早々に布団に入る。