友人とメールをしていたら「何かあった?今日のメールはなんだか可愛いらしいですよ」という文章をもらい、なんと返事をしたらよいかと呻吟した挙句「いや、昨夜、朝の4時くらいまで竹宮惠子とかを読んでいたせいで乙女回路が刺激されたのかしら」と送ってみたところそれきり返事が無いのはどうにも遣る瀬無く。

 帰りしなに古本屋に立ち寄ると、値段をつける前の山の中に石川淳『間間録』を見つける。箱入りで割合に綺麗。パラパラとめくっていると、もう、文章を目にしているだけで陶然としてきたので本を閉じて店主のところに持ってゆく。これは言い値で買うつもりではあったけど、だいたいのところを予想していたら、ほとんどその通りだったので何だか嬉しくなる。いや、良い買い物をした。文芸文庫の方とだぶっているものもあるものの、目次に並んだ「仏界魔界」「ジイドむかしばなし」「文章の形式と内容」という題を見ているだけで楽しくなってくる。なってきませんか? なってこない? そんなら君と話をしない。最後に「歴史・人間・芸術」という題の対談が置いてあり、その相手というのが萩原延寿。見ると、馬場辰猪の伝記を書いた時の話をしている。ジェームス・ジョルという萩原の知人の歴史家が来日した時、それまで面識の無かった石川に是非会って貰いたいと思い、同時に自分も一度お目にかかりたいと思った萩原は、中公の人間に紹介を願う。この時、仲介をしたのがあの綱淵謙錠だという。ひょえー。初対面ながら話がはずむ三人。そして、ジョルが帰ったあと、石川と萩原の間にこういうやり取りがあったという。

 萩原 その帰り、ジョルが帰ってからですが、非常にありがたい注意をいただいた。そのきっかけはちょっと忘れましたが、君はなにをこれから書くんだということで、私が馬場辰猪の伝記を書くと申し上げたら、「この野郎という精神で書かないとだめだぞ」といわれまして、この野郎というのが、明治政府に対するこの野郎なのか、それとも馬場辰猪に対するこの野郎なのか、前者だろうと思いますが、私はすっかり興奮してしまい、そして、じつにうれしかったのをおぼえています。それが石川さんにお目にかかった最初の機会でした。


石川淳『間間録』p311

 あの『馬場辰猪』が書かれるまでにこんなやり取りがあったとは。なんか良いな。楽しそうだ。