観劇週間


何だか先週から来週にかけては文化週間になるようで、久しぶりに観劇の予定が入ってきた。というわけで手始めに友人3人と劇団☆新感線吉原御免状』を見にいってきた。以下、観劇後の移動中の会話。


「それにしても堤真一の殺陣、予想外によかったですね。特に四股立ちになった時の腰の入り方とか、体ができてるって感じで」
「うんうん。見せ方もそうだけど動きが綺麗。演出の効果もあるんだろうけど。あそこまで舞台を広く使えるとは思わなかった。『新感線』って始めて見たけど舞台の造り方凄いね。今まで見た中であそこまで空間を大きく使える劇団て始めてかも。あ、あと、まさか”虎乱の陣”を再現するとはね。そうか実際に見るとああ見えるのか」
「『虎乱』ね。見せ方が上手いですね。ああいう形で見せてくれるとは。震えが走りましたよ。そういえば、古田新太の殺陣も相当に上手かったですね。『魔界転生』の時も思いましたけど、こういう形で見るといっそう身体の持つ力が生々しく伝わってきて圧倒されますね。しかしあの最後の演出はニクイ。それはそうと頭でかかったですね」
「たださ、全体的に台詞、早口すぎなかった? もうちょっとメリハリつけて喋って欲しかったな。あと、あれさ、原作読んでないと意味わからないところ多くない? 世良田二郎三郎とか。誰だよ?みたいな」
「原作って『三百年のベール』とか?」
「はいはい」
「いや、まあ、意味わからないかもしれないけど別に良いんじゃないですか?あくまでも伝奇っぽい雰囲気をだすためのガジェットだと考えれば。それ言い出したらきりないし。特に舞台では。物語よりもビジュアル的なものを楽しめば良いんじゃないですか?」
「まあそっか。あ、藤村俊二はどうだった?好きなんでしょ」
「いや、私は満足ですけど。オヒョイさんの声であの台詞が聴けただけで。『誠さん、優しさってのは悪なんだよ』うひゃー」
「そっかー、でも台詞棒読み臭くなかった? しかもあれ絶対、台詞忘れてたよね。途中つまってたし、かんでたし。最後はよろよろして動くのも辛そうだったし。藤村俊二って確か当年とって60過ぎだよね。やっぱこれだけの長丁場は無理なんじゃない? 何だか別な意味で緊張感がある舞台だったよ。台詞をいうたびにドキドキしちゃって」
「いいんですよそんな些細なこと。オヒョイさんが幻斎をやってくれたことだけが大事なんですよ」
「些細か?」
「あー、いや、まあ、そりゃ確かに期待してましたよ。オヒョイさんが手に双剣を掲げて『しえーっ!』といいながら裏柳生をバッタバッタと切り倒す場面とか、『虎乱』を破るとことか」
「そりゃ無理でしょ。そういえば幻斎って確か原作では五尺の矮躯ながら異様にでかい顔と、鍛えた鋼を打ち付けたような分厚い体をした異相の人物じゃなかったっけ?藤村俊二って、幻斎の飄々とした感じは良くでているけど、荒々しさみたいなものは表現できてなかったんじゃない?」
「いや、だから八百比丘尼が見せたあの夢の場面で、誠一郎が幻斎になって野性性を表したんでしょ。それにしても異相か。『一夢庵風流記』では幻斎、超絶美少年なのにな……。それはともかく、オヒョイさんには、歳月を重ねた人間の持つ穏やかな凄みとか、飄々とした中に見え隠れする迫力とか、危険の中で滲みでる稚気みたいなものを期待していたので、そこは上手く表現できてたと思いますけど」
「そうかー? あ、そういえば京野ことみの横チチ見えてたね」
「あ、見えてた見えてた。綺麗だったねー」
「え! 嘘? 気づかなかったよ私!」
「え!うわ。何見てたの。何しにきたの今日。あの横チチ見てなきゃ見にきた意味ないじゃん。あーあ」
「いいんですよ。別に京野ことみ好きじゃないし。それよりあれですよ、おしゃぶ役の人。可愛かった」
「うわ。ロリ。十歳でしょ、おしゃぶって」
「いやいや、役者の話だから」
松雪泰子がね」
「はいはい」
「あそこまで艶やかな姿を見せられるとはね。最初の内八文字?外八文字?凄かったね。背筋がピンと伸びてて」
「凛とした中にも色気があってね。それでいて少し蓮っ葉なところがあって。最後に誠一郎と会って別れるまでの台詞回しがね。別れの予感に怯えながらも、誠一郎とのひとときの逢瀬を味わいつくそうとしている姿から、誠一郎と別れて裏柳生と対峙した瞬間の切り替えがね。上手かったな」
「それにしても、誠一郎、堤真一も良かったけど、若い頃の京本政樹に演じて欲しかったな」
「は? いやいや、京本政樹は違うでしょ。きもいよ。松永誠一郎はあくまでも爽やか好青年でしょ」
「きもいとかいうな。京さまだって爽やかな演技できましたよ。ほら『里見八犬伝』の犬塚信乃役とか」
「ああ、あの陰間みたいな。きもいじゃん」
「きもいとかいうな。妖艶といえ。美しいといえ。艶麗という言葉を知らないのか」
「『里見八犬伝』をだすのなら真田広之でもいいんじゃない。殺陣うまいし、爽やかな色気もあるし、貴種の役に向いてるかもよ」
「ああ、あの山猿ね。は! 女子高生に誑かされる男子教師役なんてやった男に誠一郎はできませんよ」
「いやいや、それいうならおしゃぶ幼女だから。つうか、京本政樹もっと駄目じゃん。ただの変態でしょ。きも」
「きも、とかいうな。」
「あとは里見浩太郎とか。ほらご落胤だし新陰流で二刀流だし。隆慶一郎たしか池田一朗で『長七郎江戸日記』のシナリオに参加してたし」
「『余の顔を見忘れたか』?」
「それは『暴れん坊将軍』」
「『諸羽流正眼崩し、破邪の一刀受けてみよ』?」
「それは『旗本退屈男』」
「『死して屍、拾う者なし。死して屍、拾う者なし』?」
「それは『大江戸捜査網』」
「えーと、『已むを得ん、俺の名前は引導代わりだ!迷わず地獄に落ちるがよい』?」
「それそれ。あの頃の里見浩太郎はありだと思うんだけどな。駄目?」
「もうちょい若かったらあり。あとは村上弘明とか」
「あー、まあ、ありかな。そうすると幻斎は」
藤田まこと?」
「必殺かよ。でも藤田まことだったらちゃんと長剣を構えて『しえーっ!』とかいってくれたかも」
「じゃあ、おれんは……」
期せずしてそろう声。


「「「菅井きんか!」」」