今日の出来事


 歩道を歩いていると勢いよくベルが鳴らされたので振り向くと自転車に乗った小学生くらいの男の子が二人、私を追い越そうとしていた。少し脇によって道を譲ると、前を走る男の子が私を追い抜きざま後ろに向かって少年期特有の甲高い声で言った。
「ねえ、塾の勉強どこまでいった」
「"虚数"の掛け算!」
「え、もうそこまで進んでんの!やべぇ!」
 このやり取りを聞いた瞬間、私の頭に無数のハテナマークが浮かんだ。
 きょ、虚数の掛け算? まてまてまておまえら小学生だろう。 え?え?え?最近の塾は小学生に虚数なんて教えてるの? どこの英才教育ゼミナールのお子様達ですか? 2次方程式とかマスター済み? それにしたって小学生から虚数って、って、ていうか、虚数の掛け算を習うってどういう意味ですか。i×i=-1とかやってるんですか? わけがわからない。うひゃー。
 一瞬の間にそんな事を思い、驚きのあまり道端に立ち止まりぼんやりとしていた私が自分の聞き間違いに気づいたのは私の横を颯爽と駆けてゆく男の子の、「そう、0.7かける0.5とかやってんの」という大声が聞こえた瞬間だった。


 地元のマックで本を読んでいると、背後から「私って魔性の女じゃねぇ?」という声が聞こえたので振り返ると、どう贔屓目に見ても中学1、2年の女の子が二人、それぞれポテトとナゲットを片手にお喋りに興じていた。

 ポテトの子は制服に黒髪で割合に大人びて見える。ナゲットの子の方はジーンズに淡い緑色のTシャツ一枚の薄着姿。少し茶色がかった髪に見れば薄っすらと化粧もしているようだけど、幼い顔立ちと少女らしいほっそりとしたからだつきにその化粧は浮いているように見え、逆に幼さが強調されているようで、余計なお世話だけど何だか少し痛々しい。無造作に投げ出されたジーンズに包まれた足が驚くほど長い。最近の子はスタイルいいなぁと思いながら、「魔性の女」という久しく耳にしない言葉に思わず聞き耳を立てていると、どうやらナゲットの子が三股をかけているらしい。聴いている子はその相手を二人しか知らないようで、少し驚いたようにもう一人について尋ねると、女バス(女子バスケの略かと思われる)の対校試合で行った近隣の学校で出会ったとの事。どうやら最近はその男の子が一番のお気に入りのようで、顔が良いとか優しいとか話が面白いとか色々とのろけている。他の二人のうち一人は小学校の頃の同級生、もう一人は同じ学校の先輩らしい。名前で言われたのでよく分からなかったのだけど、最近どちらかがいく股かかけられている事に感づいたようで、何かと干渉されることが多く非常にウザイと言っている。聴いている子がどんな反応をするかと見ていると「わかるわかる、男ってそういう時ほんとウザイよね」とか言っている。言葉だけ聞いていると、どこの経験豊富なお姉さま方ですかと思えてくる。他にも、学校の先輩とは帰り道、小学校の同級生とは土曜日、近隣の学校の子とは日曜日に会うようにしているけど、そのスケジュール作りだけでも面倒くさいとか、遊ぶ範囲がなるべく被らないようにするのが大変だとか言っている。

 それにしても今時の子は、という言葉で自分の年齢を弄ぶのはあまり良い趣味でもないのでそんなつもりは毛頭ないのだけれど、話半分にしても最近の中学生というか若い娘は凄いなぁ、と感心する前にその甲斐性をわけてくれと思ってしまった事に何だか負けた感じがしてちょっとだけ悲しみを覚えてみた。