ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん


 ゆれる。あまりのモノ欲しさにゆれてしまう。本屋の五階、平積みにされた新刊本の前でゆらゆらとゆれてしまう。知らなんだ。『夢幻紳士 幻想篇』がでていたとは。このタイミングででられるとは。寒風吹きすさぶ懐に悲しみを覚えゆらゆらとゆれてみた。ゆれていても買えないので、ゆらゆらしながら帰路につく。
 『夢幻紳士』シリーズといえば十蘭や乱歩がこよなく愛した場所・「帝都」を舞台に、その空間の持つ妖しい魅力を十全に描きだした傑作群、だと思う。私は勝手にこの作品群を「帝都」の系譜*1に連なるものだと思っているのだけど、作品によっては戦前の大陸を舞台にした冒険活劇もあり、それは異郷の地の浪漫漂う痛快無比で気宇壮大で素晴らしく脳天気で色々問題はあるけれど、読むとやっぱり面白い戦前の荒唐無稽な冒険小説に通じる面白さがあったりする。押川春浪万歳。山中峯太郎もおもろい。有本芳水復刊希望。ちょっと違うけど小栗虫太郎『成吉思汗の後宮』? いやさ村上もとか龍-RON- 』最高ー! 馬賊ー! モーゼルー! 小日向白朗ー! 伊達順之助ー!


 他し事さて置き。


 周知のようにこのシリーズは探偵「夢幻魔実也」を共通の主人公として展開してゆくのだけど、それぞれ少しずつ異なる「夢幻魔実也」が登場する。一応、歪んだ軽妙さが持ち味の「マンガ少年版」、ドタバタ冒険喜劇の「冒険活劇篇」、そして妖美・妖麗・妖気の三妖に満ちた「怪奇篇(含む外伝)」と分ける事ができるかと思うのだけど、恐らく最後の「怪奇編」が最も人気があるのではないかと思われる。で、ご多分に漏れず私も「怪奇篇」が一等好きだったりする。どうやら今回の『夢幻紳士 幻想篇』はこの「怪奇篇」と世界観を共有している作品ぽい雰囲気。
 ミスマガで連載されていたのは知っていたけど、『KUROKO 黒衣』と少しばかり肌合いが合わなかったので、高橋作品と自分の感覚がズレてきたのかと『悪夢交渉人』とかとか購入を見送り、『夢幻紳士』も読もうかどうか迷っているうちにすっかり忘れ、今回書店で表紙を見た瞬間仰天。そうだよな、「幻想篇」だものなぁ。名前からして、いかにも「怪奇篇」の流れっぽいよなぁ。あの表紙でだされちゃ堪るもなにも。書店にいくたび指を咥える日々がしばらく続きそうだ。

*1:他には何だろう……栗本薫『魔都』、小野不由美『東亰異聞』、荒俣宏帝都物語』等々かしらん。藤木稟『陀吉尼の紡ぐ糸』もかな。