新記録樹立
街を歩いていると後ろから声をかけられた。振り向くと見覚えのない女性が。40代半ばだろうか。派手な化粧。原色の服。手には金ピカのハンドバックを提げている。
「何か?」
私が聞くと彼女は言った。
「あの、〜駅はどちらでしょうか」
「この通りを真っ直ぐに行って、交差している道の三本目を左に曲がると見えてくる筈です」
身振り混じりで答えると彼女は礼をしながら去っていった。
二人目は目当ての古本屋が見えた瞬間だった。
「あ、すんません。〜駅はどっちすかね」
20絡みの男性。どことなく昔の友人に似ている。そういえばたけちゃんは元気だろうか。旧友の面影を追い一瞬ぼんやりとした私に彼は重ねて尋ねる。
「あのー、〜駅なんすけど」
「ああ、それなら……」
礼のつもりかひょいと頭を下げ去っていく後ろ姿を見送っていると、彼はラジオ体操のように腕を上げ下げした。危うく通行人に当たりそうになっていた。
三人目は帰り道だった。
道の端でペットボトルのお茶を飲んでいると、向こうから来た50絡みの女性が私の横で立ち止まった。目が合った途端、首を傾げ傾げ自分が向かっている方向を指差し、自信無さそうに呟いた。
「〜駅ってあっちよね」
お茶を含んでいた私は無言で首を振り、その女性が今来た方向を指差した。そして不審気に眉をひそめる女性に道順を説明した。彼女も礼はせず立ち去った。頭を捻りながら。
割合によく声をかけられる方だとは思っていたけど、一日にこれだけ道を尋ねられるのはさすがに始めての経験。我ながら上手く説明できたと思う。あの人達もまさか私がこの街にきたのは始めてだとは思うまい。