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 夏目漱石『倫敦塔』が英訳されるらしい。それ自体は別に驚かないし、へえそうなんだくらいに思っていたら、え?
一緒に山田風太郎『黄色い下宿人』が収録される?
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 何故? いや何故も何も、いや、やっぱり何故?
 詳しくはこちらを参照の事。
 ⇒http://sherlockholmes.ameblo.jp/entry-f8e9270606398bcea6d061fc5b05d304.html
 あー、驚いた。


 私は『奇想小説集』(講談社大衆文学館)で読んだけどもう絶版だった気がする。今だとちくま文庫の『明治十手架(下)』で読めると思うし、山田風太郎ミステリー傑作選<1>の『眼中の悪魔<本格篇>』(光文社)にも収録されていたと思う。本作はホームズ物のパスティーシュなので、日本人作家によるホームズの本歌取り共演の『日本版 ホームズ贋作展覧会〈上〉』(河出文庫)で他の作品と比べながら読むのも面白そうだけど、こちらもさすがにもう絶版かも。


 シェイクスピア学者のクレイグ博士の依頼で、行方不明になった博士の隣人をホームズが捜すというお話だけど、ここに謎の日本人「ジュージューブ氏」が関わってくる。勿論ワトスン博士の手記によるという趣向。
 ちなみにこの「ジュージューブ氏」は次のように描写される。

 先客というのは、なるほど東洋人らしく、三十四五の口ひげをぴんとたてた、黄色い小さい男で、鼻のあたまに、うすいあばたがあった。彼は博士の口から猛烈にとび出す唾に、にがい顔をして立っていた。ホームズが小声で私にささやいた。
支那人らしいね」
「いや、私は日本人ですよ」
 と、その黄色い男が突然こちらをむいて、するどい声でいった。うっかり口にした非礼を耳ざとくもききとがめられたのと、めずらしく自分の観察があやまっていたことで、さすがのホームズが耳までまっかになった。


『奇想小説集』(「黄色い下宿人」p283〜284)


 さてこの神経質そうな東洋人は誰でしょか、と。私はシャーロキアンではないので、文章的なところや内容的なところの完成度がパスティーシュとしてどうなのかは良くわからないのだけど、これ単体として面白いと思った。綺麗なオチに笑いを誘われる作品。


 と、昨日興奮して書いたのだけど、一夜明けて冷静に考えるに本当に『黄色い下宿人』が収録されているのどうかはよく分からないのね。上のブログにも書いてあったけど、出版社のサイトには『黄色い下宿人』とは書かれてれてないし。
http://www.peterowen.com/pages/nonfic/tower.htm

This new translation provides the perfect introduction to the work of one of the world's greatest authors, accompanied for the first time with a comprehensive critical introduction, and a wry fictional account of a meeting between Soseki and Sherlock Holmes.


 この文の、「accompanied for the first time with a comprehensive critical introduction, and a wry fictional account of a meeting between Soseki and Sherlock Holmes.」あたりが典拠になってたのかな。でもここだけ読むと、私の貧困な英語力だと、この本には漱石についての評論みたいなものと、漱石とホームズの邂逅という奇妙な話が収録されている、としか読めないしなぁ。これだと、訳者が自分でそういう話を作って紹介しているのか、それとも既存の文章を訳して紹介しているのかわからん。


 あとは、この本の寸評で The Timesが「The Dickensian London he brilliantly describes is so close to virtual reality that in one short story Soseki himself meets Sherlock Holmes.」といって、「ディケンズが書くロンドンは漱石がホームズに遭遇するような世界だ」と、ディケンズの描いたロンドンと「one short story」が近しいみたいな言い方をしているけど、その「one short story」がこの翻訳に収録された話=訳者の紹介した「漱石とホームズの邂逅という奇妙な話」なのかしらん。それにしたって「漱石とホームズの邂逅という奇妙な話」の正体はわからない。むーん。頭が痒い。
 上のブログで『黄色い下宿人』と明示しているのは何か別に情報があったのか、それともこの文を読んで筆者の方がそう判断したのか。本当のところはどうなんだろう。うーむ。まあいいや。現物を見にゆこう。