掃除に始まり掃除に終わる一日。

 
 毎年この時期になると寄ると触ると、やれ、紫蘇茶が良いの、甜茶が効くの、このマスクが良いのと、わいわいがやがや賑やかしく、でもそこに私が加わろうとするや否や、ぴたりと会話が止まり皆の冷たい視線。言われる言葉は決まって一つ。
「だってあんた花粉症じゃないでしょ」
 ちくしょう私だってハウスダストには一家言あるんだぞ、お前らハウスダストで喘息の発作をおこした事あるか、無いだろう、くそう、花粉症だからっていい気になるなよ、と思いながら雌伏すること早や十数年。捲土重来、いつの日かと思っていたけどようやくその時がきたようだ。


 昨日の話になる。目覚めるとやたらに眼がしょぼつく。と、鼻水がこんこんと湧きで、くしゃみがとまらなくなる。ちり紙を鼻につめつめ私は思う。とうとうきたか。間違いない。花粉症だ。人生初の花粉症だ。思わず小躍りする。咳き込む。
 思えば、子供の頃からまわりの花粉症話に加わることができず幾度悔しさに枕を涙で濡らしてきたことか。あの疎外感。まるで、春、進学した先でクラスに同じ学校の出身者が一人もいないような寂しさ。みな、私の知らない会話で盛り上がっている。それが今日からは胸を張って会話に参加できる。杉林の中で一人静かに佇んでいたのも今となっては良い思い出だ。


 天気が良いので外出し、少し離れた街を散歩する。春めいた陽気に心浮き立つを覚える。歩いている間もくしゃみ、鼻水が止まらない。陽春我を召くに花粉をもってすかと、辺りをみるに、そこかしこにマスク姿の人たちが。いつもならば覚える疎外感を今日は感じない。何故なら私も花粉症。古本屋に入ると店主もマスク姿。ここにも仲間が。ああ親近感。世界は一つ。と、歩いている最中、何だか体が重くなってくる。妙に体が熱い。日差しの所為かと思うも妙に熱っぽい。何だか頭も痛くなってくる。視界がぐるぐると回りだす。こりゃいかんと帰宅。


 友人にメールを打つ。


「いやもう嫌だよね、何がって、とうとう花粉症なっちゃったよ。鼻水、くしゃみ、止まらないし、もうだるだるだよ。外歩いたけど駄目だね。花粉が飛んでるの見えるのね」
「あらまご愁傷さん」
「それにしても花粉症って熱もでるんだね。みな大変そうな筈だよ。超だるいんだけど」
「……花粉症って普通、熱でないよ」
「え。だって熱いんだけど。気候のせいかな。今日、暖かったし」
「……熱測ってみたら」
「うん。……37.4℃ある。ほら熱あるじゃん。花粉症熱でるじゃん」
「……いや、だから、……あのさあ、それただの風邪じゃないの?」
「まさか、違うよ、花粉症だよ。だって眼がしょぼしょぼするし、喉痛いし、やたらにくしゃみでるし、あたまがんがんするし、からだだるいし、きんにくいたいし」
「……とりあえず風邪薬飲んでみたら」
「風邪薬って花粉症に効くの?」
「早く飲め」


 服薬して睡眠。今朝、目覚めると驚くほど症状が軽くなっていた。どうやら最近の風邪薬は花粉症にも効くらしい。まあいい。明日は人にあって、そして、花粉症の辛さを語り合うのだ。