読書


 松岡正剛『花鳥風月の科学』を読んでいたら面白い記述があった*1
 「眠り」と「夢」とはなにかという話の中で眠りの科学史を粗描し、その中で次のような仮説があったことを紹介している。
1 949年にノーベル生理学賞を受賞したスイスの科学者ヴァルター・ヘスは、眠りを生体の有する植物性のホメオスタシス系なのではないかと見たという。周知のようにホメオスタシスとは、生体が環境の変化に応じて、内部の状態を生存に適した一定の範囲内に維持する働きのことをいう。アメリカの生理学者キャノンが1932年に提唱したもので、日本では恒常性とも訳されている。この働きは神経系、免疫系、内分泌系の相互作用によって維持されているが、その例として生体の血液成分の安定性や、体温の調節が自動的に行われることなどがよく知られている。
 松岡によれば、ヘスは生物体としての人間は植物的な潜在性を有していて、眠りとは人間が植物に戻ろうとすることなのではないかと考えたのだという。そして夢とは人間が植物に戻る中で見る植物的な「記憶」なのではないかとしている。
無論、この見方に科学的な証拠はないとしたうえで、松岡は次のようにいう。

 植物には炭酸同化作用という光合成による「昼の呼吸」と、酸素を吸って炭酸ガスを吐くいわゆる「夜の呼吸」という二つの呼吸方法があり、人間は呼吸系という観点からみると、夜の呼吸に属する生物です。そのような観点から考えると、われわれが植物的な"記憶"を夜の眠りのなかで取り戻しているという見方はとてもおもしろい。


松岡正剛『花鳥風月の科学』p350

 人間は植物の夜の呼吸に属する生物。これは「ヒトは夜の植物」といえるのかなと思い、何だかうっとりとしてしまった。綺麗な話だ。われわれは夜の植物として眠りに落ち、その中で植物の記憶を夢見ているのだろうか。
 あああ、今日は妙に感傷的だ。雪のせいに違いない。

*1:いや、この本はどこをとっても面白い記述が満載なのだけど