少年と欲情。


 本を探すため少し遠出して古本屋を回る。
 一軒目は収穫無し。電車で二軒目へ移動。寒風吹きすさぶ中、駅からとぼとぼと歩き目的の店へ。比較的大きな古本屋で品揃えも中々良い。ここは出版社別に本を揃えてあるので目的の本がある時は探しやすい。目的の棚は隅の方にあった。そこへ行くと棚にもたれかかるようにして立ち読みをしている少年がいた。
 その棚はL字を横に倒したような形をしているのだが、少年はそのL字の底辺に当たるところにもたれかかっており、私が探している漫画はその辺にある筈だった。年の頃は13、14だろうか。邪魔だ。ひどく邪魔だ。私は眉をひそめ、空咳を二三度繰り返したが、少年は身を起こす気配すら見せない。頭にきた私がそこを動かずじっと棚を見ていると、少年がちらちらと私を見はじめた。気にせず「お前どけよ」と念じながらしつこく棚を見ていると、そのうち少年が頬を赤らめこちらを見ているのに気づいた。何だこれは。私に気でもあるのかと思いきや、よく見ると睨み付けるようにしてこちらをみている。いや、違う。睨み付けているというよりも、恥ずかしがっているのか。はてと思いながら、ふとその少年の持つ漫画に目を落とすとそこには男女が互いにまぐわっている図が。おやおや。どうやらその少年は一人静かに欲情していたらしい。込み上がってくる笑いを押し殺し、じっと目を覗き込むと、少年は顔を真っ赤にし目をそらしてしまった。すまん少年。面白くなってそこを動かずまじまじと君を見てしまった私も悪いと思うが、でもそんなところで欲情している君も悪いと思うぞ。私はただ君の陰にあった漫画を見たかっただけなのだよ。
変な言い方だけど、今でもいるんだなぁ。古本屋の隅でエロ漫画読んで興奮している男の子って。青い。青いな。青臭いぞ。がんばれ。
 結局、少年は漫画を棚に戻しそそくさと立ち去っていった。残念ながらそこに私の探している漫画は無かった。
 そんなこんなで以下のものを購入。


 ようやく『妖説太閤記』を100円で見つけた。しかし上巻だけ。山風は定価で買っても良いのだけど何となく悔しい。読みたい。でも下巻を買うまでは読みたくない。読んだら買ってしまうことが分かっているから。ああ。ジレンマ。それにしても講談社版は天野喜孝の絵が妖艶で良い。大衆文学館の装丁も味があってよいのだが天野絵はやはり別格。
 今市子は絶対ミステリの人だと思う。『百鬼夜行抄』でも度々ミステリ的な技法をさらりと披露しているが、ゲイをネタに仕掛けを作りここまで見せられるのはたいしたものだと思う。たまに構図が変なところがあるような気がするのは何時もの事か。それにしても『楽園まであともうちょっと』の3巻は何時出るのだろうか。