中谷美紀


 この間、映画『力道山』の記者会見で久しぶりに中谷美紀を見たのだけど、あらためて「この人は植物的だなぁ」と思ったりする。
『横浜心中』辺りからのヌルいファンなのだけど、年を経るごとにぎらぎらしたところが削ぎ落とされていき、静的で清潔な美しさに磨きがかかり、生身の人間に見えないところまできている気がする。恐ろしい。
 一青窈にも通じるところがあるような気もしつつ『珈琲時光』の多分ほめ言葉になってはいないけど希薄な存在感とでもいうべき演技が好きな私としては中谷美紀もああいう筋のない映画に出て演技を見せて欲しいなぁと思ってみたりみなかったり。ただ立っているだけでそこに物語を読む欲望を喚起させられる人は中々いない。


 『力道山』といえば夢枕獏に『仰天・平成元年の空手チョップ』という怪作があった。
赤坂で暴漢に刺され死んだはずの力道山が実は死んでおらず、冷凍睡眠によって現代に蘇り、前田日明と試合をするという物凄いお話だった。舞台は平成元年〜平成2年だからちょうど前田がUWFで活躍していた頃か。ただ、連載中(1989〜1993)に現実のプロレス界では色々とあり、作者はそれを作品にどう使うかで大変だったらしい。
前座に猪木VS馬場を持ってきたり、天龍が前田に相撲の「ガチンコ*1」用の技を伝授したり、メインのレフリーに木村”柔道の鬼”政彦を持ってきたりとお遊び一杯の内容。読んだ当時は作者が作品中に顔を出して「です」「ます」調で語る語り口が少々鼻についたけど、色々と小ネタを仕込みながらも楽屋オチにならず、小説として読めるレベルを保っているのは流石と思った記憶がある。いや、懐かしい。

*1:元々は相撲用語で真剣勝負の謂。思えば夢枕漠からは様々な隠語を教わった。『ケーフェイ』、『シュート』、『ギミック』、『ベビーフェース』などなど