『春樹をめぐる冒険―世界は村上文学をどう読むか』に出向く。

 東大の構内にはテントが乱立していた。常態なのだろうか、それとも新歓の準備なのだろうか。あそこで夜を明かせたりするのだろうか。だとすれば羨ましい話だ。我が母校はその点、非常につまらなくなった。新歓といえば一大イベントだったのに、とそんな話は置いておいて、シンポジウムのメモを取ってきたので読み返そうとしたところ、字が汚すぎて何が書いてあるのかわからない。加えて、徹夜に近い状態と、ゆく前に飲んだ風邪薬が良い感じにきいてきて、始終ぼんやりしていたので、ちゃんとシンポジウムをみられた気がしない。じゃによって、ここに書いた内容は感想を含めほぼ私の妄想の可能性が高い。
以下、印象に残っているものを箇条書き。


リチャード・パワーズによる基調講演→フランス、韓国、ロシア、台湾、アメリカの翻訳者が語る村上文学の魅力→翻訳本のカバーに観る村上文学のイメージ→映像世界の村上作品のような流れ。
リチャード・パワーズが格好よかった。写真で見る数倍、男前だった。
・基調講演でミラーニューロンと村上文学の近似性*1という話をしていた。以前、茂木健一郎を読んだとき(この日)、非常に興奮した記憶がよみがえり、話そっちのけで一人で興奮してしまった。
・この基調講演は柴田先生訳で『新潮』に収録されるらしい。
・翻訳者が語る村上文学では、気のせいだと思うけど、アメリカの翻訳者が話している最中、ロシアの翻訳者がそっぽを向いていた気がしてしょうがない。
・このロシア人の翻訳者が男前だった。貴族的な顔立ちで非常に頭の切れそうな外見に加え、他の翻訳者にマイクを渡したりと気配りしていた姿がまたステキだった。壇上で、もう一人の若手のロシア人の翻訳者(ちょっとアイアン・ジーリング似)と顔を寄せ合って何事か仲睦まじ気に話していて、しかも後から聞いた話しだとこの若い翻訳者さんは、男前さんの翻訳によって村上小説に開眼したらしく、そんな話を聞いていたら、非常に、こう、眼鏡の上から腐女子フィルターが装着されて、一人で勝手にドキドキしてしまいました、という話をシンポジウム後、友人にしたところ、恐らく心の奥底からであろう「あんた馬鹿ですか?」という言葉をもらった。
・時間がかなり押していたらしく、翻訳本のカバーについて各国の翻訳者が一人一人話をしている最中、司会者がそわそわと落ち着きなかったのが可愛そうだった。
ハンガリーの翻訳者のおっちゃんが、やたらに話し上手で芸達者だった。
・私の前の席のおばちゃんが、司会者が何か言うごとに賛同しているのか何なのか鼻息を漏らすような喉の奥から声をだすような「うん」とも「ぬふ」とも「ほう」ともつかぬ唸り声を始終発するのに加え相槌をうっているのか納得しているのか何なのか知らないけれどがくがく首を上下に揺らすのが気に障ることこの上なかった。途中から数えていたら3時間で63回そんな声をだしていた。数えるのに夢中になりすぎて話を聞き逃した。
・各国の表紙カバーの話のはじめ、司会者が、日本語版の『風の歌を聴け』の表紙を「安西水丸さん*2によります」といった瞬間、「佐々木マキだよ!」という厳しい声が聞こえた。どこから聞こえてきたのかわからないけど(マイクを通してか?)、その声の調子はこちらがびくりとなるほど激しいものだった。
・この、各国の翻訳者が集う飲み会に顔をだしたいと思った。あの面子なら徹夜で話を聞いても良い。イメージとしての熊野大学みたいな、もしくはミス連みたいな形式で、夜っぴて話を聞いてみたいと思った。
・一人の日本人作家についてこれほど多くの国の翻訳者が一同に会し、シンポジウムが開かれるのは初らしい*3
・台湾の何とかという大学の側には、『ノルウェイの森』というカフェが3軒ある。
・『ノルウェイの森』のスペイン(カタルニャ語)でのタイトルは『東京ブルース』。
・ロシアでの『レキシントンの幽霊』の表紙カバーには北斎の百物語「こはだ小平二」の絵―蚊帳の上から髑髏が覘いているやつ―が使われていた。あまりにもあまりだ。日本の作品で幽霊という言葉がつけばこうなるのか。
石坂洋次郎五木寛之片岡義男村上春樹という系譜。しかし、村上は自身の作品が映画化されることを執拗なまでに拒む。
・あいかわらず四方田犬彦はハイテンションだった。拍手をうけた後、両手を挙げてその拍手に答えていた。
・シンポジウムの様子は『文學界』に掲載されるらしい。
・つまり私はそれを読めばよいのか。

*1:正確には、近年驚異的な発展を遂げているニューロサイエンスと村上春樹の描く世界は親密な関係性がある、というような話だった気がするのだけど、あくまで気がするだけで、実際は全然違う話をしていたのかもしれず、するとこの場合、「正確には」という言葉は使えないので困った。

*2:うろ覚え。間違えたのは確かだけど。

*3:何に対して「初」かは失念。戦後、と聞こえた気がしたけど、そうすると戦前はあったのか?それとも戦後生まれの作家?ああ、ちゃんと聞いておくんだった