変な夢を見た。


 買ったばかりのL’Arc〜en〜CielのDVD『LIVE IN USA』を見続けて寝たせいか、頭がhyde色になったらしく変な夢を見る。


 場所は山中の庵。それほど大きくはないが小奇麗で住み心地は良さそう。見ると初老の男性が三人と気品のある老女が一人、小さな卓を囲んで座っている。三人は何かについて話し合い、老女が進行役を勤めているようだ。


「麦の蒼、夕暮時の永遠的薄明、明方の薔薇紅……。少年の美しさは夏の一日のようなものだが、彼はその一瞬の中に生きている稀有な存在だ」
「それは稲垣さんが常々仰っているところの、A感覚というやつですか」
 進行役の老女の言葉に稲垣と呼ばれた男性が頷いた。
「なるほど。”美を見たる者、その心、死の手に捉われたれば、もはや浮世のわざには適すまじ”の心持ですね。折口先生はどう思われます」
 稲垣の言葉に耳を傾けていた丸眼鏡の男が口を開いた。
「凝縮された美しさの中に生きているというのは違うと思うのですね。私は彼を見ると世阿弥を想起するのですが、彼は世阿弥のいうところの『花』を体現している。初期の頃、つまり『Claustrophobia』や『Voice』、『Vivid Colors』を唄っていた頃までと最近のhydeの間には明らかな断層を感じるのですが、初期の彼にあったのは『時分の花』、つまり若さと容姿の一体となった偶然の美しさだったのが……』
 折口はハンケチで口元を拭いた。
「失礼。それがいつの間にか『幽玄の位』と『闌けたる位』の釣り合いの妙を得て『真の花』を悟ったように思えるのです。美しさの質においては同じかもしれませんが、その現れ方、現し方に変化が生じているように思うのです」
「”闌位に上りて後は幽玄、恋慕、哀傷何れも自在なれば安全なるべし”の境地ですね。私も『LIVE IN USA』ではその装いや動作にも『体心捨力』と『砕動風』の妙、自由な心持を感じ取りましたが」
「白洲さんは『両性具有の美』という本を書いていると伺ったが、やはりhydeにもそういった美しさを見出しておられるのかな」
 それまで黙っていた男が炯々とした眼で睨み付けるように老女を見た。
 白洲はその眼光をいなす様に軽く肩をすくめた。
「私は彼を見ていると、女性へと専門化していった美という性質が未だ両性に存在し得ていた頃を思い起こします。ただそれはhydeが綺麗な女性にも見えるが故に美しさを覚えるというのではなく、手弱女振りの中に、それを内部から食い破るような荒々しさを見てしまい、そこに一種、幽遠玄妙な凄みを感じて、それを美しいと思うのかもしれません。私は時にhydeを阿修羅の示現かと*1思うこともあります」
 白洲はそこまで喋ると一息ついた。
「そういえば、翁はhydeと故郷が近いという話を聞きましたが」
「その通りだ。紀州には美しい男子が多いのだよ。そもそも……』
 男はにやりと笑うと勢い良く喋り始めた。


 どうやら稲垣足穂折口信夫、そこに南方熊楠を加えた三人でhydeについて鼎談しているらしい。進行役は白洲正子のようだ。
 何て豪華な面子だろうと見ていると、初めのうちは穏やかに進んでいた会話が稲垣と南方が露骨な言葉を使って互いに口角泡を飛ばさんばかりの議論をし始めたところで風向きが変わった。折口が苦々しい顔つきになってそっぽを向いた。二人は折口の態度に気づく様子も見せず明け透けな話を続ける。眉を顰めた折口が飛んでくる唾を神経質に拭いながらぶつぶつと小さな声で突っ込みを入れるのを白洲が素早く拾い上げ、稲垣、南方両者に返し、それを受けた二人が折口に詰め寄り文句を言い始め折口が怒って部屋から出たところで夢から覚めた。


 目覚めて少しぼーっとした。
 何て嫌な一日の始まり方だ。

*1:自分の夢ながら、阿修羅って示現するのか? というか阿修羅って垂迹を持っているのかしらん?