類友とお茶をするの事

 先達てしばらく会っていなかった友人とお茶をした。一頻り久闊を叙し、近況を報告したのちお喋りに興じていると、そういえば、と友人が言った。
秋篠宮家に子供が生まれるらしいね」
 先月発表されたのだという。全然知らなかった。これで男の子が生まれたら皇位継承権はどうなるのかと尋ねると「さあ知らん」と言われる。聞くところによると、かなりの高齢なのだという。「そうか、頑張ったんだね。よく知らないけど」というと、友人は「うーん。自然妊娠なのかな」という。
 久しぶりだとはいっても、数年前は毎日のように遊んだ中。互いの趣味嗜好は恰も掌を指すが如くに熟知している。そのまま話がころがり続ける。
「ならば人工受精だとでも」
「いや、知らんけど」
「人工授精なら一つ期待したい事がある」
「ほう」
「懐妊が報じられる前に畝傍山一帯を掘り起こしたという話はなかったか」
「いや、ないと思うが。何故」
「いや、きっとあった。彼らは髪の毛を捜していたのだ」
「何のために。そもそも地中に眠っている髪の毛ってどれくらい持つんだ?」
「知らないけど、一本くらい残ってるだろう。残っていたのだ」
「なにを言いたいのか大体予想はつくけれど、一応聞いてあげよう。捜してどうした」
「そこから体細胞を抽出し核を取りだしたのだ」
「そして核を抜いた卵細胞に移植し、さらにあんな事やこんな事をしてクローンを作るのだな」
「その通り。これで皇祖のクローン完成。皇位継承問題とか一気に解決。完璧じゃないか」
「それ、この間読んだ小説にあった」
「あ、ばれた? 駄目かな」
「いや、駄目じゃないけど。神武はいかにも古すぎる。檜隈大内陵を捜してみてはどうだろうか」
「それもよし。いや、一つ思いついた。それよりも三人目が生まれたところで皇室分裂の方が面白い」
南北朝か。そうこなくっちゃ。でも、それも良いけどこの際だから三分割ではどうだろうか」
「天下三分の計か」
「然り。三種宝物もそれぞれにわける」
「それを手にした者が日ノ本を統べるのか」
「いや、さすがにそんなベタな事はよういわん」
「で、三分裂した皇室はどうなる」
「せっかくだから一人(一家?)には京都に戻ってもらおう。聞くところによると京都人は、天皇は”ちょっと”長い旅行にでているだけだと考えているらしいので、戻ればきっと喜ぶことだろう」
「何がせっかくなのかよくわからないが、物凄い偏見だな」
「もう一人はやはり吉野だろうか。いや、九州も面白いかもしれない。なんせ皇祖のでた地だ。もう一度天降ってもらおう。鎮西鎮西。最後の一人は那須、いやいや、北海道でどうだろうか。これで綺麗に三分割だ」
「北と西、そして中央か。まて、東京はどうなるのだ」
「決まっている。坂東の地は坂東の者へ。関八州を統べる者は千年の昔から決まっている。水の一族を統べる者。今も千尋の闇の底で久遠の眠りにまどろむ御方。そは永久に横たわる死者にあらねど計りも知れぬ永劫のもと死をも超えるもの。坂東の守護神にして荒ぶる地霊に再降臨を願おうぞ」
「まさか……」
「そう、新皇――平将門
「お……おぉ……ふんぐぅるいぃ むぐぅるうなふ クぅとぅるるふ ルぅるいぃえ うがぐぅなぐるぅ ふぅたぁぐぅん」


 類友は死んでも変わらないと、互いに頭をかかえる。そんな梅もほころびはじめた早春の暖かな土曜の昼下がり。